ほんとうの金持ち

喫茶店で 常連さんが ほかの馴染み客に、 自分の財産がいくら
あるかについて、 あけっぴろげに しゃべっていた。

――あらら。 世の中 いい人ばかりじゃないのに、 人前で
   そんなことを話しちまって 大丈夫かいな。 

そんなに私財があるのなら、 「 金は持ってませんよ 」 って
顔しておけばいいのに。

まあ、 そうした考えが自体が、 小市民的な発想
なのかもしれない。

ある知人との間で 鳩山前首相の話題が出たとき、 その人の口から、
なるほどな、 とおもえる意見を聞いた。

「 鳩山さんが、 母親から九億円の資金提供を受けていたっていうのが
 あったけれど、 あれはほんとうに知らなかったんだろうね 」

その人が言うには、 ほんとうの金持ちというのは 裕福過ぎるため、
自分の貯金がいくらあるかなんてことはいちいち認識していない、 
というのだ。

合点 ( がてん ) が行った。

――九億とはいわない。 十万でいいからちょうだい。

テレビに向かって、 多くの人がそう叫んだのではないだろうか。

ぼくはというと、 ( 自分の入院とは関係なしに ) 病床で 何回か
顔見知りの死というものに立ち合ってしまったせいか、 金とか
名誉とかいうものに それほど気が向かなくなっている。

欲のある人のほうが、 たぶん長生きはするのだろうけれど。

◆この記事は、もうすぐ消滅するgooブログに、2010年11月4日掲載したものです。

©2010 Daisuke Asaoka