モテるお医者さま
行きつけの書店で、 浜辺祐一さんの救命救急シリーズの文庫を購入しよ
うと カウンターへもっていったら、 店員の女の子に異様にきらやかな目で
見られた。
つり銭を渡すときも、 両手で包み込むように ぼくの手をぎゅっと握ってくる。
この書店では、 以前から何度か資料として医療の専門書を注文して買って
いる。 内科学の本とか、 そういうやつだ。
カウンターにいるその娘の、 畏敬をたたえたようなまなざし。 そして、 両
手で包み込むように ぎゅっと手を握っての、 つり銭渡し。
救命救急措置の本を注文したときも、 この女の子は度が過ぎるほどに
親切で、 つよく脳裡に焼きついた。
注文したその日の夕方、 その娘から電話がきた。
「 私、 あれから調べてみたのですけれど、 同じシリーズでこういう本も
あるようです。 注文しておきましょうか 」
「 え!? いえ、 あの、 けっこうです 」
「 私、 さっき朝丘さんから注文を承りました○○っていいます。 また何か
あったら、 いつでも遠慮なさらずにおっしゃってくださいね 」
この女の子は、 ぼくを 医者と勘ちがいしたのではないだろうか。
でなければ、 ふつう頼んでもいない本をわざわざ調べ上げ、 知らせては
こないはずだ。
――お医者さんてモテるんだなあ。
しみじみ、 そうおもった。
※この文章は、 一、 二年前に書いてブログに載せないまま お蔵入りに
したものです。 今日は書くことがなかったので コラムとしてスタメン入り
させました。
ちなみにその書店へは、 もう長いこと行っていない。
◆この記事は、もうすぐ消滅するgooブログに、2011年8月14日に掲載したものです。
©2011 Daisuke Asaoka