花の家

うちの近所には〝 花の家 〟と呼ばれる邸宅があった。

家の前、 そして庭一面にプランターが常置されており、 春になるとさくら草で
満開になるのだった。

門前には〝 花の家 〟の看板。 花好きのご主人が丹精を尽くして育てていた。

その光景は 数百円とってもいいほどの美観で、 家の前を通る人々の目を
愉しませていた。

いま、 〝 花の家 〟の前を通っても、 花はほとんどない。

昨年、 そこのご主人が亡くなったのだ。

いつか見た花景色が 夢幻だったかのようだ。

もしもプランターでなく、 庭に植え込まれていたら、 今年も花が咲き満ちて、 
ご主人の遺志をのこせたのではないか。

そんなことをおもったりもするが、 花たちは ご主人がこの世にいたときと
同時代に美しく咲いたのだから、 それでいいのかもしれない。

◆この記事は、もうすぐ消滅するgooブログに、2012年4月24日に掲載したものです。