与作
小学生のころ、 ぼくの住んでいる街に 〝 与作 〟 と呼ばれる浮浪者が
いた。
髪はぼーぼー。 口のまわりはヒゲだらけで、 見るからに汚い身なり
だった。
ぼくらクラスメイトは、 放課後よく自転車で集まり、 公園にくり出すの
だが、 年に数回、 道でばったり与作と会うことがあった。
「おーい! ヨサク!」
クラスメイトが声をかけると、 与作は 「 なんだ、 コノヤロウ! 」 と、
怒って追いかけてくるので、 子どもたちはキャッキャ喜んで、 自転車で
逃げるのだった。
公園で、 与作と野球をしたこともある。
どうしてそうなったのかは覚えていないが、 クラスメイトのひとりが持って
きたプラスチック製のバットを、 与作が折ってしまった。
泣きだすクラスメイト。
与作は、 その男の子のほおにキスして ぼくら全員にその子と握手する
よう強要した。
わけのわからない人物だった。