メインキャラクターが3人いる理由
『 オレンジ病棟 』 を書くにあたり、 育毛に関するさまざまな文献を
読みあさった。
小難しい育毛理論を日常会話に変換していくのは、 けっこう骨な作業だった。
実際にみかん酒をつくり、 自分の生えぎわに塗ってみたりもした。
ある本に 「 シャンプーは よくしたほうがいい 」 と書いてあったかとおもうと、
別の本には 「 シャンプーは あまりしないほうがいい 」 などと 記されて
いたりするので、 読んでいくうちに 正解はないような気がしてきた。
そこで、 キャラクターごとに 独自の育毛法を持たせることにした。
また、 ハゲ方にも いろんなタイプがあることがわかった。
同様に育毛をしても、 タイプにより 予後は異なってくるのだ。
そこで、 三タイプのハゲを登場させることにした。
M字型ハゲ、 スカスカ型ハゲ、 頭頂部を左右の髪でおおったO型ハゲだ。
比較的よくなると言われているタイプには、 わりと忠実に 髪を回復させた。
もはや回復は難しいだろうという者には、 〝 反則技 〟 を使わせた。
さて、 問題は 主人公クルミの育毛の行方 (ゆくえ) をどうするかだ。
これについては、 ほんとうに頭を悩ませた。
〝生えた〟〝生えなかった〟で物語を終えてしまっては、 話が浅くなり、
それまで積み上げてきたものが 台無しになる気がした。
そこで、 〝生える〟〝生えない〟 という概念を アウフヘーベン
できないか考えることにした。 第三の選択肢である。
アウフヘーベンというのは、 中島らもさんが よく好んで使われていた
コンセプトだ。
簡単に書けば、 AとBという ふたつの相反する考えから、
それよりもう一段上の Cという考えを導きだすことである。
ありとあらゆる育毛を試みた結果、 クルミが辿(たど)りついた境地。
それがいかなるところであるのか、 あえてここには書かない。
人間にとって、 時には すごく必要な要素だったりする。
◆この記事は、もうすぐ消滅するgoo2009年ブログに、2009年11月14日、17日に掲載したものです。
©2009 Daisuke Asaoka