表紙のイラスト解説 その11

理学療法室で リハビリを受けるクルミ。

クルミが受けているのは、 ROMと呼ばれる
関節の可動域をひろげる訓練だ。

ここから、 頭皮のマッサージも リハ室でできないかを考えた。

――いや、 マッサージより体操だな。 育毛体操をさせよう。

だが、 このシーンでは、 まずクルミと同室の患者のキャラを
知ってもらう必要があった。

ミッチーという青年が 何に悩み、 どんなコンプレックスを抱いているのか。

そこで育毛体操は先送りにし、 同室患者同士で喧嘩をさせることに。

不幸は他人と比べるものではない。

たとえ この世に自分よりも もっと不幸な人がいるとしても、
本人が不幸だと感じているのなら それで不幸だ。

幸せも また然り。

ハゲ談議を通じ、 そのことを ミッチーに言わせたかった。

病院の西側にあるトイレ。
小用筒の正面に立つクルミ。

夕刻、 ここの洗面所は 薄毛の者にとって危険地帯だ。

斜陽が髪を透かし、 頭皮を露 (あら) わにするのだ。
ハゲ、 ひやひやである。

だが、 それより とんでもないハプニングが クルミを待っていた。

小用を済ませるクルミの背後。 
個室トイレの中で それは起こった――。

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この写真は、 交通事故にあい 車椅子生活を送っていたころ、 
ぼくが実際に お世話になったトイレだ。

車椅子用なので、 中は広やかな個室である。

洗面台の鏡は 斜め下向きにすえ付けられ、 座っていても
自分の上体が 見られるようにできている。

そして、 手すりつきの洋式便器。

足もとの床には ペダルがついていて、 踏み込むと、 手を使わなくても
トイレの水が流れるようになっている。

当時つけていた入院日記や 開示したカルテを読み返してみると、 
このペダルによって、 ひと騒動あったようである。 

騒ぎとなったのは、 ぼくがどじを踏んだせいだ。

夜半、 このトイレで用を足したあと、  車椅子に腰掛けたまま
眠り込んでしまったらしいのだ。

痛み止めやら 抗生物質やら、 そういった類 (たぐい) の薬が
効いていたのだろう。 ぼくが眠りこけている間、 車椅子の前輪が
ペダルを踏んだままで、 トイレの水は流れっぱなし。 

付近の病室の患者さんが、 音をきいて不審に思い、
ナースコールのスイッチを押したのだろう。

駆けつけた数人の看護師さんに肩を揺さぶられても、 ぼくは
目を覚まさなかったようだ。

それにしても、 病院のトイレって、 緊急時のために
外からでも 扉がひらくようにできているのだろうか。

うーむ、 どうなんだろ。

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©2009 Daisuke Asaoka