オリジナルへの敬意
先日、 喫茶店にいたら、 一緒にいる女に得意げに豆知識をひけらかす男が
いた。
ぼくは内心、 かちんときた。
なぜなら、 男が引用していたのが、 すべて中島らもさんが小説 『 ガダラの豚 』
のなかで書かれたジョークやトリックだったからだ。
これが、 男がひとこと、 「 小説に書いてあったことなんだけれどさぁ 」 と、
前置きをしていたら、 気にならなかったかもしれない。
だが、 男はまるで自分が考えたような口ぶりで、 自分の博識ぶりを女にアピール
していた。
香山リカさんが著書のなかで書かれていたが、 いまはネットで情報を共有
する時代らしい。
情報はオリジナルを離れ、 「 みんなのもの 」 になるというのだ。
たしかにそういう風潮は目につく。
問題なのは、 本家のネタをそっくりいただき、 自分の手柄としてしまう人間の
存在である。
ぼく自身、 次の小説では大量の本を発想の基としているが、 そういう元ネタには
敬意をはらい、 本の巻末に 「 参考文献 」 として表記している。
自分が影響を受けてきたものに自身の考えや体験をブレンドし、 自分の作風を
生みだす努力を。 類似の作品がすでにあった場合はそれを読んで、 かぶっている
ところを取り除く努力を、 この五年間してきた。
だれがオリジナルかなんていうことは、 もはや問われなくなった時代。
むろん、 世の中には同じことを考えている人間というのは結構いるわけで、
どんなに気をつけても、 自分が目にしていない作品や、 他人がすでに言っていた
ことと似てしまった、 などという場合もあるだろう。
結局のところ、 オリジナルに敬意をはらうどうかは、 その人その人の意識の問題だと
おもう。
◆この記事は、もうすぐ消滅するgooブログに、2013年10月5日に掲載したものです。
©2013 Daisuke Asaoka